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横浜家庭裁判所横須賀支部 昭和53年(家イ)9号 審判

国籍 ニユージーランド

住所 神奈川県三浦郡

申立人 ジェフ・カールトン

国籍 ニユージーランド

住所 スイスジユネーブ市

相手方 マリー・カールトン

主文

1  申立人と相手方とを離婚する。

2  手続費用(横浜地方裁判所横須賀支部昭和五一年(タ)第二〇号離婚請求事件の訴訟費用を含む)は、申立人の支出にかかるもののうち金三五、〇〇〇円を相手方の負担とし、その余は当事者各自の負担とする。

相手方は申立人に対し金三五、〇〇〇円を償還せよ。

理由

本件は横浜地方裁判所横須賀支部昭和五一年(タ)第二〇号離婚請求訴訟事件として申し立てられ、昭和五二年一二月一四日午前一一時に第一回口頭弁論が行われ、昭和五三年一月二三日横浜家庭裁判所横須賀支部の調停に付されたものである。

前記訴訟事件において原告たる申立人は「原告と被告(相手方)とを離婚する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として次のとおり陳述している。

1  原告と被告とは一九六八年一月二〇日ニユージーランドのクリストチヤーチ市の聖○○○○○教会で挙式して婚姻した。

2  原告はニユージーランド外務省の一員として被告とともに一九六八年九月来日し、原告は駐日ニユージーランド大使館に勤め、夫婦は原告(申立人)の肩書住所で同居した。一九七四年二月原告は大使館を退職し、同年三月から○○大学大学院の奨学生となり、現に同大学院博士課程に在学している。

3  被告は英国のロンドンに生れ、原告が大使館に勤務したときニユージーランド国籍変更した。

4  原告は愛情と財産をもつて夫婦生活を支持してきたが、被告は一九七五年九月一九日、全く予告なく家出し、同日羽田空港からエアフランス機に塔乗してスイス国ジユネーブ市の被告の肩書住所に行き、同所から原告に対し離婚を求めてきた。

5  被告は家出の直前に国籍を英国に変更し直した模様である。

6  被告の行為は原告に対する遺棄であり、ニユージーランド国離婚法上の離婚原因がある。

被告は前記訴訟の口頭弁論期日に出頭しなかつたが、陳述したものとみなされた答弁書により、「被告は原告との同居生活に耐えることができなかつたので、原告に対し、原告のもとを去る意思を伝え、離婚を求めた。原告は被告が原告のもとを去つたのち被告に対し、同意離婚(a divorce dy agreement)するかというので、被告は同意する旨答えた。被告は現在もその意思に変りはない。

被告は原告との離婚を受け入れたとき、ニユージーランドの法律と、ニユージーランドの社会のルールに従つてそうしたのだということを裁判所に指摘したい。「悪意の遺棄」(malicious desertion)なる観念に基づく離婚なるものは、ニユージーランド法とニユージーランド社会には存在しないし、存在しえないものである。」と主張した。

(当裁判所の判断)

申立人提出にかかるニユージーランド国結婚証明書によれば、申立人と相手方とは一九六八年一月二〇日ニユージーランドのクリトチヤーチ市の聖○○○○○教会で一九五五年のニユージーランド婚姻法に従い結婚したこと、申立人はニユージーランドのクリストチヤーチ市生れであり、相手方は英国ロンドン市生れであることが認められ、相手方から送付された相手方のパスポートのコピーによれば、相手方は一九七七年三月一一日ジユネーブ市のニユージーランド総領事館発行のパスポートを所持していることが認められるから、相手方は現にニユージーランドの国籍を有するものと認められる。

本件はニユージーランド国籍を有する夫婦の離婚事件であるところ、夫である申立人は現にわが国に住所を有するが、被告である相手方は現にわが国に住所を有していない。離婚の国際的裁判管轄権の有無を決定するについては、被告の住所がわが国にあることを原則とするが、原告が遺棄された場合、被告が行方不明である場合等においてもこの原則を貫くときは、わが国に住所を有する外国人で、わが国の法律によつても離婚の請求権を有すべき者の身分関係に十分な保護を与えないこととなり(法例第一六条但書参照)、国際私法生活における正義公平の理念にもとる結果を招来することとなる。

本件離婚請求は原告が主張する前記事情によるものであり、原告は一九六八年(昭和四三年)九月以降わが国に住所を有しているものであつて、被告はスイス、ジユネーブ市に住所を有するものであるが、本訴に応訴しているのであるから、前者の理由によつても、また後者の理由によつても(被告が原告の住所国での訴訟に任意に応訴した場合には、原告の住所国に管轄権を認めても不当に被告の利益を害するおそれはない。)、本件訴訟はわが国の裁判管轄権に属するものと解するのを相当とする。

本件離婚の準拠法は夫たる申立人の本国法ニユージーランド法である(法例第一六条本文)。申立人審問の結果と相手方の訴訟における答弁の趣旨を総合すると、当事者双方は離婚につき合意していることが認められるが、ニユージーランド法は同意による離婚を認めていないから、日本法による協議離婚に相当する離婚を認めることはできない。ニユージーランド国の一九六八年改正の婚姻訴訟手続法第二一条によれば「捺印証書またはその他の書面によつてなされたか、口頭によつてなされたかを問わず、原告と被告が別居合意(agreement for separation)の当事者であること、及び右の合意が十分な効力を有しており、かつ、二年以上のあいだ十分な効力を有してきたこと」、「被告が、正当な理由なく、故意に原告に遺棄し、かつ、二年またはそれ以上のあいだ、原告をひきつづきそのような遺棄の状態においたこと」のいずれをも離婚原因としている。本件において被告は「正当な理由なく、故意に原告を遺棄し」たものではないと主張しているところ、原告本人審問の結果によれば原告は一九七六年二月初旬以前に被告との別居を容認したことが認められるから、両者は別居合意に基づき本審判の日までに二年以上別居していることになり、ニユージーランド法上の離婚原因が存在するとともに、わが民法第七七〇条第一項第五号の「婚姻を継続し難い重大な事由」がある場合に当たることになる。

本件においては被告たる相手方が国外に居住するため調停委員会の調停を成立させることができないので、当裁判所は家事審判法第二四条に基づき調停委員会を構成する家事調停委員御崎誠三、同松林アサの意見を聴き、当事者双方のため衡平に考慮し、一切の事情を観て、職権で、当事者双方の申立の趣旨に反しない限度で、事件の解決のため離婚を命ずる審判をすることを相当と認める。

よつて主文のとおり審判する。(手続費用につき非訟事件手続法第二七条適用)

(家事審判官 田中恒朗)

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